0426 オパティアへ。ダヌンツィオのことなど。

この日はソボルさんがオパティアを案内してくれる日である。午前中自宅テラスで絵を描いた。

お昼前にソボル、マイーダのカップルが車で迎えに来てくれる。オパティアはクロアチア有数のリゾートである。リエカから車で30分位。他の観光地、ドブロブニクなどと異なるのは歴史上オーストリアのリゾート地であったということだ。もともとはあるイタリア人が瀟酒なヴィラを妻のために海岸沿いに作ったことに端を発しているが100年以上前にオーストリアの王族、つまりハプスブルグ家の人々が避冬地としてここにヴィラを作り、リエカの貴族もそれに続いて、現在ではヨーロッパ有数のリゾートになったのだ。地中海的というよりもウイーン的らしい。海岸沿いに遊歩道がある。ここへの観光客はこれまではドイツ人、イタリア人、オーストリア人、ハンガリー人が多かったが最近はイギリス人とフランス人が多くなったとはソボルさんの解説。またもっと近年にはリッチなロシア人が滞在ではなくヴィラごと買い取っているという話である。もう少ししたら中国人がやってくるかも。

ソボルさんに観光客値段ではない安くておいしいレストランを教えてもらう。(まだオープンしていなかった)夏にでも改めてきてみようと思う。

気持ちの良いテラスでお茶をする。智子はクロアチアの有名なプリンが食べたいと言っていたがマイーダさんにここはウイーン的なところなのでそれはないのだと教えられる。でフルーツケイキにしたのだがこれは大変おいしく、しかもとてもリーズナブルで驚いた。

マイーダさんは美術書の翻訳や編集の仕事をしていて出版に関してはソボルさんと共同していることなどを知る。マイーダさんの知り合いでザグレブ美術館のキュレーターを紹介してもらうことになった。ソボルさんもマイーダさんも当然、美術やデザインに詳しく話が早いのは幸運である。僕の編集したリシツキーの本も見せたのだが、そこからおもしろい話がいろいろ聞けた。(ソボルさんはロシア語が読めるので話が早い)

そのひとつにあなたはダヌンツィオを知ってるか?というのがあった。「いや名前ぐらいなら知ってるけど良く知らない」と答えるとダヌンツィオはイタリア3大詩人の一人であるという。ダンテ、ペトラルカ、ダヌンツィオ、なのだと。で、かれは1919年から1920年、第一次大戦後の混乱の中ここリエカを統治した詩人であり、その時ヨーロッパ中のダダイストや未来派、アナーキストがここに集まっていたのだという話になった。ここリエカは第一次大戦前まではイタリアが占領しており(ソボルさんの母親はイタリア人であるがそれは占領下のリエカに生まれたからだ)、サラエボ事件以降の政治的真空状況の中、イタリアを背負って勝手にリエカを統治したのが文学者であるダヌンツィオだったらしい(イタリア政府は他国に遠慮してダヌンツィオを無視しようとしたが)。彼は日本ではムッソリーニや、何よりもあのマリネッティに影響を与えたファシズム的文学者として知られているし、日本ではさほど重要視もされていないかもしれないがとても興味深い人物であるようだ。当時のイタリアの国境線が私たちの今いるリエチナ河なのである。

ダヌンツイオはその短い統治期間(約2年間)、国家の最高規範は音楽にあるとして、かなり非政治的、文学的な統治を行ったようである。ソボルさんによればそれはクレージーでアナーキーだったが興味深く、ある意味では芸術的な時代だったのだ。

自宅に戻りネットで調べると、彼はドビュッシーとともに作った「聖セバスチャンの殉教」などで三嶋由紀夫に大きな影響を与えたことは周知の事実であったことがわかった。さらに夏目漱石の「それから」の執筆にも影響を与えたらしい。

初日にリエカの街巡りをした時にみた旧市庁舎のバルコニーでダヌンツィオは花火を打ち上げ、ファシズム的で未来派的な詩を朗読し、演説していたのである。(三嶋の市ヶ谷での演説はその模倣であったという説もあるそうな)

私たちの今いるリエカはそのような街だったのか。これもまたあらためてその著作を読まねばならないと思う。私の受けた印象ではその後のムッソリーニやヒトラーのファシズムとダヌンツィオのそれとは根本的に一線を画しているように思えるのだが。多分彼は19世紀的な人ではなかったかと。

ちなみにダヌンツィオは空軍にいた時に片目を失明している。

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元イスラム寺院であった教会

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