0311 フィルムに刻まれた魂、グラン・トリノ。gran torino

今日は書くべき事の多い一日。
あきお君は朝早く宿を出て図書館に向かう。
彼の研究テーマとかかわるミナールという人の図像を見る為である。ミナールはダイヤグラムに関する本であれば必ず出て来るあのナポレオンのロシア遠征を視覚化した人である。
しかし現在専門家でさえもミナールがどのような人かちゃんと知っている人は少ない。
ホテルに戻って来た彼に採集した図像をいくつか見せてもらったが大変刺激的であった。
特に僕にとってはミナールのナポレオン遠征ダイヤグラムが実は何とハンニバルのローマ遠征とセットだったことがわかり大変興奮した。これまでそんなものは見た事もなかったからだ。
ミナールはテクノクラートでそれゆえほとんど名前が出て来ない人である。
「にもかかわらず」ナポレオンとハンニバルをテーマにした事自体、このダイヤグラムが実務的というよりは、かなり強く啓蒙する意思を持って作られたということがわかる。
ヨーロッパ人にとってアレクサンダー、ハンニバル、ナポレオンは英雄3点セットなのだ。
アレクサンダーの場合はあまりにも古くてデータが充分ではないだろうが、ハンニバルならばかなりのデータがあるので可能と考えたのではないかと推測できる。
あきお君はハンニバルを知らないみたいなので「?」みたいな感じだったけれど。
まあ、ともかくもこれから彼の書く論文を楽しみにしたいと思う。

私たちは宿から歩いて国立自然史博物館の進化大陳列館、モスクを通ってアラブ世界研究所、サン・ルイ島に渡り、十数年前に泊まった宿を見て、シテ島ノートルダム寺院まで歩く。
国立自然史博物館は十数年前に僕が衝撃を受けた所で今日のwriting space designを僕が考えるきっかけになったところである(もう一つはクリュニュー)。
ここでの感想を述べ出すとあまりにも長くなるので止めておくがとても色々なことを考えさせられた。
昨夏、ギリシアの神秘のディスクの時にも書いたがここでもまざまざと十数年前の自分の経験が今の自分を決定していることを改めて考えさせられたのが一つと、しかしこの間の時間によって今の自分は当時とはまた異なる感想を持ったということである。
それは僕に与えられた新たな宿題なので今後ゆっくり考えたいと思う。

またアラブ世界研究所は今回はじめての訪問であった。
今更なのかもしれないが(1987年完成のものなので)とても良かった。
今回僕が見たヨーロッパの現代建築の中でも最も感動したものかもしれない。

そして明日からミラノに移動するためお別れするあきお君とは最後の夜なので、スペインから実はずっと気になっていた映画グラン・トリノを見に行く事にした。
これが期待通りというよりも期待をまたはるかに超えて傑作であった。
三人とも涙ぼろぼろ。
あきお君は上映中は泣いてないといっていたが嘘だ。
僕は最後の最後、「グラン・トリノ」のテーマソングが流れイーストウッドの声が聞こえてから堪えられなくなった。

小学生の頃見ていたTV西部劇「ローハイド」のロディ役の頃からのクリント・イーストウッドファンとしても、これは涙なしでは見られない映画である。(どうでも良いことだがこの映画で彼にアカデミー賞を授けなかったアメリカのアカデミーはアホである)
そしていつの間にか(僕の中では「バード」のころくらいから)アメリカ映画の最高の映画監督(それも2位以下を大きく引き離して)になってしまった彼だが、その中でもこれは特別な傑作の一つだろう。
ニューヨークと東京でもう2度見ようと思う。

あまりにも感動したのでホテルに戻り夜中まで酒盛り。
明日あきお君は飛行機の便が朝早いのだけど。

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パリ、宿の近くのリヨン駅。

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国立自然史博物館。正面が進化大陳列館。

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ビュフォンの像。

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進化大陳列館内部。
僕は十数年前、英国の自然史博物館を訪ねた後、ここを訪れた。英国は当時流行の映像、コンピュータインタラクティブの先端を走っていた。しかしここは全く映像などのハイテクは用いず、「ブツ」の見せ方(lightingとレイアウト)とグラフィックのみで、驚く程美しい空間を作り出していた。しかも後にベルリンのモリタさんから聞いてわかったことだが、パブリック施設においてサウンドデザインを導入した最初期の博物館だったのである。
音響がすごくて無意識に響くのだ。
英国とフランスこの二つの博物館の展示という行為に対する行き方は当時の僕には本当に多くの刺激を与えてくれたのだった。ものを「見せる」ということはどういうことかについて(当時の僕としてはストイックなこちらの方が断然好ましく思えたのだったが)。
しかし、今回の訪問で、ここもその後結局は時代の流れに抗する事ができなかったとみえ、液晶ならぬ古くさいTVモニターがあちこちにあり、かつてはあんなに緊張感をもっていた美しいグラフィックもぐずぐずになっており、実は少なからずがっかりした。
妻はそうだとしても十数年前にここまでやっていれば、当時あなたが感動したのは理解できるとなぐさめてはくれたが。
もちろん、僕自身も特に今回の1年の旅でさらに色々思う所もあるのでお互い様である。
要するに「時代は変わる」し僕らは「転がる石」なのだ。

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モスク

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アラブ世界研究所。設計ジャン・ヌーベル

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図書館

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ノートルダム寺院

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