あまりにもアラン島の印象が強烈だったせいと、多分疲れているせいでゴールウエイでは博物館などを訪れる気がおこらず。街でやっとのことインターネットができる場所を探してメールを確認したりした。
ここでも夜の8時半ころにやっと日が暮れる。海のそばの宿に滞在している。長く続くサンセットは大変美しい。
アラン島の朝。昨日がうそのように風のない穏やかな朝。
まるでモネのような。
展覧会を見ながらふと西脇順三郎のことを思い出した。10代の終わりから20歳代の始めころ西脇の詩に入れあげた時期があったことを思い出したのだ。確か西脇はイエーツの研究を行っていたか、あるいは影響を受けたのではなかったか。イエーツとパウンドとエリオットがほぼ同時代の詩人だったはず。確かな事はもううろ覚えだけれども、思い出したのはそのせいだ。そしてイエーツから何故西脇なのかといえば、今回の長旅の予定の中、一ヶ月以上もギリシアに時間を割いているのは少なからず、30年前の西脇の詩の影響があるように今、ここにいたって思い当たる節があるからだ。ギリシアの神話的古代と現在の侘びた日本の田舎との時空の不思議な交感のようなものを自分は西脇の詩から感じ、大学に入学したての自分は下宿している近所の田舎の木立の中を自転車で走りながらギリシアと自分にとっての神話的原風景である故郷での幼い記憶を重ねつつ西脇のまねをして彷徨ってみたのだった。
永遠の旅人かへらず
(だったか?すいません。これを書いているのはだいたいギネスを飲んだ後か飲みながらなので、いい加減なところがあっても適当に聞き流して下さい)
例えば4〜5歳のころ子供達だけで親に内緒で食べた野いちごの味や、大人のいない切り崩された石灰の真っ白の広大な地面の上、雨の後にできた水たまりを泳ぎ回る無数のオタマジャクシの群れ、その上に映る刻々と変化する夕暮れの空の色などを。
この時、年齢的には幼いはずなのに過ぎていく時間への恐怖を感じた事はしっかり今でも覚えている。
イエーツはアイルランド独立のただ中でゲール語の復興運動を行っていたという。彼も左目を失明している。彼のテキストを改めて読み直してみたいと思った。
古本屋で12ユーロ。やっぱり少し高い感じはありますね。
まあ、英会話の本を読むより面白いかと...。
イギリス覚え書き
そもそもこの旅の最初の訪問先にイギリスを選んだのは大英博物館を訪れる為であった。これから行く事になる中東とヨーロッパ全体の場所と時間、文明の見取り図というか大枠をざっくりと俯瞰したく、その為には大英博物館しかなかろうと思ったわけだ。ここを訪れるのは25年前、10年前に続いて三度目となった。今回三日間、時差ぼけをものともせず頑張って通ったが、やっぱりこれまでと似たようなもので「ただざっと見ただけに過ぎないなあ」という印象が残った。本当はもっと長期間じっくり腰を落ち着けて見るべきなのだろう。ただ以前に比べてこちらの知識も増している分、以前より少しはクリアに見えてきたような気もする。
今回、特に印象深かったのは展示物をあちこち移動して見ながら、自分がまるでブラウジングしているような感覚を強く持ったことだ。インターネットにおけるブラウジングと似た感覚である。例えばエジプトエリアを見てギリシアエリアを見た後再びエジプトエリアに戻ったうえで、シリアエリアと比較するなどといった作業だ。パソコンと異なるのは目の前に解像度100%の現物があることと、クリックの代わりにこちらが生身の身体を移動させているということだ。しかし頭で起こっていることは、何と言えばいいか分からないが対象物をインデックス化しているというか、感覚的にはいったんリファランスの状態に持っていっていることは間違いがなく、その点でネット上とさほど差はない。当たり前のことだが現物が本来有るべき場所にあったはずのリアリティはかなり失われている。だからこそ(無駄なことも多分、多いだろうが)この後の私の旅は現地を可能な限りたどっていくことが逆に重要なポイントとなる。(実際、出発前には何人かの人から君の旅は博物館に行けば事足りるのでわざわざ現地に行くのは無駄が多すぎるのではないかと指摘はされた。もちろん僕はそうは思ってないのだが。)
昨年企画したノイラート展と無理に結びつけるつもりはないし、ノイラートやオトレ、ディドロを改めて持ち出すまでもないかもしれないが百科全書とmuseumの登場は必然的に同じものであり、またそれが今日のネットワークの元になったのだと今回大英博物館で改めて強く感じた次第。
今回望外に嬉しかったことが後二つある。ひとつは大英図書館のリーディングルームのパスがもらえたことである。これは一生使えるのだ。その為に今回は二度通うはめになったのだが、二度目に持っていった所属大学の学長名の「こいつの面倒宜しく頼む」的な書類の効き目があったのか、とてもスムーズにもらうことができた。今回は時間が無くそれを有効には使えなかったが(リーディングルームに入っただけでは無意味で、館内に置いてある膨大なリファレンスを使いこなさなければここは意味をなさないところなのだ)今度改めてじっくり準備をして来る事にしたい。ここにあるほとんどの貴重書が直に手に取って自由に見れるなんて信じられない。はっきりいってこんなに嬉しい事はない。世界の財宝を手にした気分だ。始めは厚かましいと思って図書館の特別展示だけ見て帰ろうと思ったのだが妻がだめ元でもパスのこと聞いてみたらと言ったのだった。本の神様が計らってくれたものと信じている。生きている間にこれから何度ここを訪れることができるか分からないが人生の楽しみが増えました。
今回、ロンドンで卒業生の田中(通称ユミッペ)さんに会えたことも嬉しいことの一つだった。彼女はほぼ10年前のゼミの卒業生。私のゼミの二代目の卒業生である。卒業後出版編集の会社に勤務し、その後修士であるロンドンのRCA(ロイヤルカレッジオブアート)のインタラクションデザインコースを優秀な成績で修了、フリーで活躍の後、この5月から北欧に拠点のある某有名企業のシニアディレクターとして働き始めるという。今回話をして大変しっかりしているのを見て感慨無量なものがあった。年をとったせいか私にとっての10年と若い彼女にとっての10年はこうも違うものかという思いもあった。彼女がインターナショナルな仕事環境でデザイナーとして勝負するのはこれからであるが是非頑張ってほしいと思う。今度母校に来て若い学生達に話をしてねと頼んでおいた。それで思ったのはこの旅の直前に送別で来てくれた6年前の卒業生、西沢君はソニーのインタラクション部門、北崎さんはゼロックスのアドバンスデザイン部門でバリバリ活躍している。ユミッペも含めてライティングスペース魂?をもった卒業生が活躍し、それが世界のデザインを変えていくのだなあと実感した。皆まだまだ若いのでこれから苦労は沢山あるだろうけど、初心忘れずに持続してもらいたいと願う。俺も自分なりにがんばらなきゃと思いました。
最後にロンドンの生活について。
噂には聞いていたが本当に(日本に比べると)物価が高い!ホテル、レストラン、地下鉄などは軽く2〜3倍の感覚である。ウイスキーも2倍の感じ。ワインは1.3倍くらいか。唯一安いと思ったのはビール、特にギネス。値段は日本とさほど変わらないがうまさは圧倒的にこちらのほうがうまい。後は良く知られていることだが美術館の多くが無料である事。これは本当に助かった。
ダブリン市
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